≪短編≫群青
「え?」


瞬間、驚いた大雅の手の力が緩む。

だから私がその手を振り払うと、反動で、大雅はよろめくように2,3歩足を引いた。



「……お前、いきなり何言って……」

「私、大雅のことが好き」


今度ははっきりと言った。

大雅はひどく困惑した様子で顔を覆って、「綾菜」と私の言葉を制しようとする。


けれど、言われるであろう言葉はわかっているから。



「でも大雅は、私を好きにはならないでしょ」

「………」

「わかってるよ。いいの、大雅はそのままで。私が勝手に大雅のこと好きになっただけだから」

「………」

「でも私は、ずっとこのままでいる限り、心のどこかで期待する気持ちが残ったままなの。そういうの、苦しいんだよ。だからね、もうやめようよ。セフレとして成り立たないし、終わりにしよう?」


しばらくの後、大雅は顔を上げた。

とても悲しそうな顔。



「じゃあ、もう、無理だな」


抑揚なくその一言を告げ、大雅は私に背を向ける。

我慢しているはずなのに、視界がにじむ。


そのまま大雅は一度もこちらを振り向くことなく、部屋を出ていった。


ドアが完全に閉まったのを見て、涙の一粒がこぼれ落ちた。

私はそのまま声を殺して泣いた。

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