≪短編≫群青
「ねぇ、また家に帰らないつもり?」
行為を終えて気だるそうに煙草の煙をくゆらす大雅に、私は問う。
大雅はそんな私を一瞥し、肩をすくめて、
「別に。いつものことだろ。何? 今更」
「うっわー。それって泊めてもらう人の態度? いい加減、宿代請求したくなるんですけど」
「体で払ったろ」
「へぇ。今日もまたいきなり来て、私を犯しといてよく言う」
「そのわりには、ヨガってたくせに」
「はぁ?」
返す言葉もなくなり、私はふてくされた。
昔はもうちょっと素直な男だったのにと思うと、今の大雅の嫌味な感じが余計に腹立たしく思えてしまう。
「っていうか、今日、北女の子と遊ぶって言ってなかった? 何でその子のところに泊まらずに私のところに来るのよ」
「あいつ、一回ヤッただけで偉そうにしやがってさ。ブスのくせに。うぜぇじゃん?」
知るか。
心底叫びたい気持ちをぐっとこらえる私。
大雅が私にそういうことを隠すことはなく、むしろ愚痴まで聞かせてくれる。
謎だった関係は、今やすっかり、ただのセフレという言葉で片がつくようになってしまった。
「あんたちょっとは自重しなよ」
「何? 嫉妬?」
「馬鹿じゃないの。私に性病移されたら困るから言ってんの」
大雅は「あっそ」としか返さない。
別に私は、大雅なんて好きじゃない。
だから、嫉妬とかいう感情もない。
でも、嫉妬心など欠片もないからこそ、大雅は今も私とのこの関係を続けているのだろう。
それがいいことなのか悪いことなのかは、もうよくわからないのだけれど。