≪短編≫群青
「すごい荒れてたね。何かあったのかなぁ?」

「さぁ?」

「前から目つきとかは怖かったけど、あんなんじゃなかったよね。私、桐原くんがあそこまで大声でキレてるの、初めて見た」


萌はまるでテレビの中の出来事のような感想を述べる。

でも、確かに私も同意見だった。


大雅は今までいくら機嫌が悪くても、あんな風に怒鳴ったりはしなかった。



「桐原くん、謹慎かなぁ?」

「さぁ?」

「テスト受けられないのなかなぁ? そうなっちゃうと留年じゃない?」

「そうかもねぇ」


せっかく、考えないようにしてるのに。

なのに、あんたがそんな風でどうするのよ。


今でも心配ばかりしている私は馬鹿みたいじゃない。



「長谷川さん!」


呼ばれて顔を向けると、市井くんが。



「さっきの、すごかったね。長谷川さんのクラスのやつでしょ? 関わりたくないよね。近付くだけで襲われそうだし」


また、ふとあの熱帯夜の日を思い出す。

私はそれを記憶の奥底に追いやり、



「市井くん。テスト終わったら、ふたりでどこか遊びに行こうか」


笑顔を向けると、市井くんは目を丸くして、「行こう!」と言った。


臆病になって尻込みしたままでは、前には進めない。

私はもう、早く大雅を忘れるべきだと思ったから。

< 50 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop