≪短編≫群青


テスト期間はあっという間だった。

大雅は結局、保健室登校になったらしいが、姿なんて見ていないので、真偽のほどはわからない。



そんな中で迎えた日曜日。

約束の10時より15分も前に駅に到着し、まわりを見まわしていると、



「早っ!」


背後にいた市井くん。

そのあまりの驚きっぷりに、私は笑いながら「おはよう」と言った。



「何か、バスが早く到着しちゃって。そっちこそ」

「俺、今朝すごい早くに目が覚めてさ。つーか、私服だと新鮮だよね」


お互いにラフな恰好だが、やはり制服の時とは印象が変わる。

ちょっと変な感じ。


ほんとにこれから市井くんとデートをするのだなと、私は改めて思った。



「どこ行く? 長谷川さん、行きたいとこある?」

「うーん。私、わかんないし、任せるよ」

「あ、じゃあ、映画にしようよ。昨日公開のやつ。先週からCMでめちゃめちゃ宣伝してて、俺、気になってたんだよね」

「うん、いいよ。行こう」


萌と園山くんみたいな展開。

もしかしたら私と市井くんも同じようになるのだろうかと思ったけれど、もう、それならそれでいいのかなと思い直す。



「テストどうだった?」

「それ聞く? 市井くんこそどうだったの?」

「俺は全然ダメ」


朝から待ち合わせて、ふたりで他愛もないことを話しながら、映画館までの道のりを並んで歩く。

ただそれだけのことだが、大雅とは今まで一度だってこんなことをしたことはなかった。


私たちは、いかに健全でない関係だったのかと、今更になって理解する。

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