≪短編≫群青
夜7時。
少し早めに市井くんとファミレスで夕食を食べ、私の地元の駅まで送ってもらった。
駅を出て、私は市井くんに振り返り、
「今日はありがとう。うち、近いから、ここでいいよ」
笑った時、視界の隅を横切った人の影。
無意識に顔を向けてしまうと、ふと目が合って、でもやっぱりすぐに逸らされて、その背中は駅構内へと消えていく。
そんな私の視線に気付いたらしい市井くんは、
「あれって確か、長谷川さんのクラスの、窓ガラス割ったやつだよね。桐原だっけ?」
「………」
「あいつもこの駅を利用してるのかな? たまたまだとしても、会いたくないよね」
どうして姿を見ただけで、息もできないくらいに苦しくなってしまうのだろう。
忘れたいはずなのに、なのに思いは募る一方だ。
「長谷川さん」
呼ばれて再び市井くんに顔を戻す。
いつの間にか真剣な顔になっていた市井くんは、
「好きなんだ」
あの日と同じ言葉。
「今日、すごい楽しかった。一緒にいればいるほど、長谷川さんのこと好きだなって思うし。だから付き合いたいとも思ってる」
「………」
「あ、えっと、俺、確かにこの前は『すぐに答えがほしいわけじゃない』って言ったけど、やっぱりちょっと焦ってて」
「………」
「だから、明日、答えを聞かせてほしい」
市井くんの真剣な顔と言葉。
なのに、私はただぼうっと、大雅はこれからどこに行くのだろうかと考えていた。