≪短編≫群青
「俺、多分、中3のあの夏の日からずっと、綾菜のこと好きだったんだと思う」

「……え?」

「でも、愛なんてないって思ってた。どうせいつか別れることになるんだったら、付き合うとかそういうの、無意味じゃんって」

「………」

「逃げてたんだよ、俺はそうやって。他のやつらと適当に遊びながら、一定の距離にいる綾菜との関係が楽だったから。難しいこと考えたくなかったし、ずっとそれでいいって思ってた」


そこで初めて、大雅の目が私へと向けられた。

真っ直ぐに見据えられ、



「俺さ、お前のこと傷つけてたって気付かなかった。好きだって言われて初めてわかった」

「………」

「でもさ、罪悪感っつーの? ずっと振りまわしてたのに、今更、俺も好きだったかもなんて言えねぇじゃん?」


大雅は肩をすくめて笑った。


どうしてこんな時に、そんな優しい顔をするのか。

私は泣きそうになりながら目を逸らす。



「じゃあ、何で今言うの」

「手遅れになりたくなかったから」


大雅は先ほどの自嘲もどこへやらで、すっかりいつもの余裕の笑み。



「今朝、園山が電話してきてさ、『学校来いよ』とか言うんだよ。うるせぇなぁって思ってたら、あいつ、ひとりでべらべら喋り始めて」

「………」

「大半はノロケな。あとは学校のこととか。で、いきなりさ、『そういえば長谷川さんがバスケ部のやつと付き合うかも』とか言い出して。昨日、駅で見たやつかよって思ったら、無性に腹立って」

「………」

「気付いたら走ってた。俺まだお前に何も伝えてねぇじゃん、って。自己満でもいいから言っとかなきゃ後悔するじゃん、って」

「ほんと勝手だよね、大雅って」


呆れが先に立って、私も思わず笑ってしまう。

大雅は聞いてきた。
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