≪短編≫群青
「あいつと付き合うのか?」

「さぁ?」

「おい、ちゃんと答えろよ」


はぐらかす私に、さすがに眉根を寄せる大雅。

おもちゃを取られそうな子供みたいな顔。


私はまた笑い、



「付き合わないよ。さっき、ちゃんと断るはずだったのに、大雅が邪魔するから」


大雅は驚いたように目を見開く。



「市井くんと付き合ったら、多分、普通に楽しいんだと思う。でもさ、私、オオカミに襲われた傷がどうしても癒えなくて」

「………」

「大雅を忘れるために付き合おうかとも思ったけど、私には無理だった。やっぱり、それって利用してるだけみたいだし、相手に失礼でしょ。そんなんじゃ、誰も幸せにはなれないな、って」


そこまで聞いた大雅は、「ははっ」と声を立てて笑った。



「お前のこと好きとか言うやつなんて、そうそういねぇのに。もったいない話だな」

「あんたが言うな」


こいつは、ほんとに。

どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。



「じゃあ、私、市井くんと付き合うよ。いいの?」

「お前がそうしたいなら俺は止めない。でも、俺じゃないやつと付き合ったって、お前が満足できるとは思わねぇけどな」

「うわー、すごい自信」

「だって俺以上にお前のことわかるやつなんていねぇだろ」


あぁ、もう、ほんとに腹が立つ。

これで自分の気持ちを伝えているつもりなのか。


何で私はこんな男を好きになってしまったんだろう。
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