≪短編≫群青
「てか、大雅、あんなに大声で私の名前なんか叫んで、みんなに知られたらどうするの。今頃、絶対、変な噂されてるよ。私もう教室に戻れない」

「別に関係ねぇじゃん、他のやつのことなんて」


大雅はあっけらかんとして言う。



「つーか、俺からしてみれば、何でお前がそこまでかたくなに学校で俺を避けてるのか聞きたいけどな」

「……え?」

「俺は別に、お前とのことを誰かに知られたって何も困らねぇもん。でも、お前はよっぽど俺とのことを知られるのが嫌なんだろうなと思って」


ぽかんとした後、やっぱり何だか馬鹿馬鹿しくなって、私はまた笑った。

大雅も笑う。



「何やってたんだろうな、俺ら」


笑いながら言って立ち上がった大雅は、刹那、壁に手をつき私の唇を奪った。

触れるか触れないかのキスだった。


驚いて思わず足を引いた私に大雅は、



「はい、仲直り」


と、だけ言って、歩き出してしまった。

一拍遅れて状況を理解した私は、



「な、何考えて」


と、抗議の声を上げるが、もちろんそんなものが大雅に届くはずもない。

大雅は悠々と歩きながら後ろ手に手をひらひらとさせるだけ。



「待ってよ! 何でそんなに勝手なのよ! 『仲直り』って何?! あれで謝ったつもり?! だからって私、大雅と付き合うなんて言ってないよ!」


叫ぶ私に大雅は肩を揺らしながら顔だけを向け、「バーカ」と毒づいてまた、歩き出した。



何だかなぁ、と思った。

でも、よくも悪くも大雅らしいなとも思う。


諦めて息を吐き、私も教室の方へと歩き出す。
< 60 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop