吸血鬼の翼
ルイノは少し寂しそうな表情を浮かべたが、直ぐに笑顔を見せ頷いた。
イルトは2列に並んだ長椅子の間にある道を歩き始める。
一歩、一歩と進んで行けば、ゆっくりと思い出す今までの日々。
リリアやシンパースの町の人達。
吸血鬼である俺に戸惑いながらも、此処にいる事を赦してくれた事。
ラゼキにソウヒにイクシス―――――自分に関わった全て。
笑い合い、悲しみを分かち、理解し、時に喧嘩をしながら共に成長した掛け替えのない仲間。
そして、ルイノ――
知識や形には見えない大切な事を自分に教え、そして全てを受け止めてくれた尊い人。
強く強く、心に刻んで忘れない。忘れちゃいけないんだ。
最後の一歩を踏み出す所で開かれた扉の前で少し立ち止まる。
イルトを待つ異空間は真っ白でまるで雪景色だと思った。
この向こう側に広がる世界には必ず希望があると信じる。
ルイノがそう想うように。
そして、異世界にいる未だ見ぬ1人の聖女を思いながら、イルトは静かに世界を渡った。