吸血鬼の翼
決別
話を聞き終えた美月は暫くの間、沈黙を続けていた。
まさか、こんなに辛い過去を背負って此処まで来たなんて、美月は思わなかったのだ。
何て言えば良い?
もう大丈夫だから、とでも?
そんな事―、気休めだとしても誰が言えようか。
甘えた考えだった。
今、私が頼って欲しいと思っているのは、イルトやラゼキにとって重荷になっているのかもしれないのに。
何て事だ……
私には彼等を止める権利なんか何処にもない―――
私がしてあげられるのは、イルトの手を離してあげる事ぐらいだ。
自分の無力さを悔やみ、次第に涙が浮かんで来る。
「……ゴメン、ミヅキ…」
隣に座るイルトは震える美月の背中を擦っている。
まるで、泣きじゃくる子供をあやす様な仕草で。
美月は涙が溜まった目の淵を袖で拭うと首を左右に振った。
「……私の方こそ、ごめんなさい。辛い話をさせて」
戸惑いながらも、目の前にいるイルトを見つめた。
この人にとって、ルイノさんはどれだけ大切な存在だったかは充分に理解出来た。
気持ちも伝わって来たし、私なんかが適う相手じゃない。
キュルアスという世界を変える為に此方に来たのも分かった。
それに必要不可欠であろう、聖女という存在を探している事も―――
チクリと痛んだ胸に少しの違和感を感じながら、手の平を握りしめる。
「……お別れしよう、今まで本当にごめんね。」
イルトは何か言いたかったのか逡巡した後、苦い表情を浮かべて美月へ手を伸ばす。
だが、イルトはラゼキに肩を掴まれ、制止させられる。
2人の距離は見えない境界線で遠退いた気がした。