吸血鬼の翼
「…でも、今日まではこの家で泊まっていって、もう外も真っ暗だし…ね」
美月の痛々しい笑顔にイルトは無言のまま、拳を見えない様に握り締め、頷く。
仕方ないんだ…
自分の都合で彼女を巻き込む訳にはいかない――
でも、それでも…こんなに気持ちが揺さぶられてる。
頭では別れなきゃいけないのは分かっている。
だけど、何かが違うともう1人の自分が心の中で叫んでる。
掴みたいと美月の手の平を今すぐにでも、引いて行きたいとそう願ってしまっている。
赦されない願い――
この気持ちが何なのか…なんて曖昧で、もやもやと霧がかかっていて未だ分からない。
その理由はこの先も、美月と共に居れば分かるのかもしれない。
そこまで思考を続けると、ふと我に返り首を左右に振る。
駄目だ。
こんな事、考えるな。
美月にも、ルイノにも迷惑になるし己の我侭(わがまま)に過ぎない。
「そうする。ミヅキ、今まで…ありがとう。」
美月を直視出来ずに朱い瞳を逸らしたイルトは虚ろに笑う。
それが、今出来るイルトの精一杯の気持ちの抑制なのだ。
それを見た美月は意味を汲み取れずに悲しく俯く。
そんな2人の様子を見て、気を使ったのだろうか、ラゼキは静かに部屋から出て行った。