吸血鬼の翼



電気を消した部屋の寝台には疲れて眠る美月が横になっていた。
それを見守る様に寝台の脇にイルトが座っている。

暗い闇の中、今そこには2人しかいない。
否、2人いる。
孤独なんかじゃないと眠る美月に囁かれているみたいで、イルトは思わず彼女の手を握った。

暖かい体温、それも、もう直ぐしたら手放さなければならない。

彼女の幸せを願うなら、それが一番良いのだ。

もし、これからも一緒にいたとしたら間違いなく美月はクラウやロヴン達に目をつけられてしまうだろう。

幾分そうしていたのか、窓へ目を向ければ、静まり返った町とすっかり闇に包まれた空が広がっていた。

ルイノは大丈夫だったのか―

話を終えた後、直ぐにでもラゼキに聞けば良かったのだが、問えずにいた。

“1人の少女を見つけて…体内に光を宿す聖女”

別れ際にルイノに託された事。一体、聖女は何処へ居るのだろうか。
イルトは瞑目して思いを馳せた。

その少女は自分達を救ってくれるのか。

少しだけ、不安になったイルトの手の平はふと握り返して来た手によって緩和させられる。

目を開き、視線を下ろすと穏やかに眠る美月が視界いっぱいに入った。





思い起こせば、この世界に来た時は正直、不安で仕方なかった。
初めて目にする異世界は夜だった為、暗くて閑散としていた。
自分で決意して世界を渡ったのだけど、やはり、その想いだけでは心許なかったのだ。
世界に1人だけ、置いて行かれた気さえしたのを今でも覚えてる。

じわじわ孤独が押し寄せる気持ちをどうにも出来ずに座りこんでいる所へ彼女はやって来た。

自分へ大丈夫かと思案する彼女に改めて人は暖かいのだと思わされた。

来たばかりで右も左も分からない自分の手を引き、導いてくれた優しい少女。
夢のような出来事だった。


それを終わらせるのは自分だ。




「……さようなら、ミヅキ。元気で」

そっと美月の眠る瞼に口付けを落とし、握っていた手をゆっくり解くとイルトはその場から静かに退室した。



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