吸血鬼の翼
「もうええか…。」
扉を閉めるといつの間にか、その隣にはラゼキが両腕を組んで立っている。
それに驚きも見せずにイルトは小さく頷く。
「いつまでも此処に居るわけにはいかないから…」
傍に居られないのなら、せめてこうして彼女を守る。
朱い瞳には強い光が宿っていた。
口には出してはいなかったけれど、それは充分、ラゼキに伝わっている。
「そうやな…」
イルト同様、ラゼキもまた何処か寂しい表情を浮かべる。
一緒に居たのは、少しの間だったけれど別れ難い気持ちをさせるくらい、彼女の存在は大きかった。
篠崎家を後に路地に入るとイルトはラゼキの前を振り返る事なく、歩き続ける。
真っ暗な中、そこで漸くイルトは口を開いた。
「……ルイノは大丈夫だったのか?ちゃんと無事だよな?」
立ち止まったイルトは、やはりラゼキを見ることなくルイノの安否を確認する。
「大丈夫や…今頃、イク坊が介抱してるわ。ちゃんと意識もあるし元気や」
ラゼキは直ぐには答えずに沈黙していたが、話す気になったのか一息吐いてから喋り始めた。
それを耳にしたイルトは安心して、ゆっくりラゼキを振り返る。
「もう心残りは何もない、探しに行こう聖女を―ラゼキもその為に来たんだろう?」
「せや、ルイノがイルだけじゃ、心配やからってな!」
ラゼキは重たい空気を払拭させるくらいの気持ちでイルトの背中をバシッと叩く。
それに痛いなぁと苦笑いを浮かべながら、イルトは段々と白んでくる空を見つめながら再び歩き出した。