吸血鬼の翼
携帯のアラーム音を耳にすると美月はゆっくりと目を開いた。
手の平に暖かさがある。
この暖かい体温は自分のモノじゃないと美月は直ぐに気が付く。
…イルト…手、握っててくれたのかな……
上体を起こし、寝台から降りると部屋を出た。
そして、気配の残る隣の部屋へ入るのにドアをそっと開いた。
中を見れば、蛻(もぬけ)の殻でそこには誰も居ない。
ソファにも、寝台にも。
此処ニハ、誰モ居ナイ―
出て行ってしまった。
何を期待してるの美月?
あの人達はもう居ないんだよ。昨日、別れを告げたじゃないか。
しっかりして、いつもの日常に戻るだけ。
頭で言い聞かせるも、美月の瞳からは涙が溢れている。
口に手をやって我慢すれば、益々涙を堪えきれなくなって次々と頬を伝っていく。
「……イルト、ラゼキ」
ズルズルとその場に座り込んだ美月は両手で涙を拭う。
頭に浮かぶのはイルト達が居た日常。
朝、起きたら挨拶するのが楽しみになっていた。
学校から帰れば、夕飯を作る分が増えたのが嬉しくなった。
休みになれば、外へ出掛けて―――もっと、貴方達と沢山過ごしたかったよ。
だけど、それは…もうお終い。
あの夢の様な日々は何処にも存在せず、残った気配はただ消えていくだけ。
絶えない涙をその儘に蹲(うずくま)り、暫くの間そうしていた。
静かな部屋の窓からは燦然と輝く朝日が差し込んでいた。