吸血鬼の翼
第3章
昔の話です。
数百年前のキュルアスの話。
まだ精霊や聖獣達と交流があった豊かな時代です。
戦争や差別もなく、共存を受け入れる世界は平和を愛する者達で溢れていました。
人間と半獣人は手に手を取って助け合う生き物でした。
人間では、どうしようもない事は半獣人が補いました。
半獣人では、どうにもならない事を人間が補いました。
それはとても美しい光景であったと或る国の教皇は他(た)の者に語ったそうです。
しかし、それを良く思わない魔者がおりました。
毎日の様に悪さを繰り返しては、司教等に捕まり牢屋に閉じこめられ、懲罰を与えられておりました。
魔者はその牢屋の外へ繋がる柵の向こうから、人間と半獣人が遊ぶ姿に何となく目をやったのです。
本当に些細な事だったのです。
人間と半獣人はどちらも子供でした。
何らかの原因があったのでしょう、2人は喧嘩を始めてしまいました。
人間の子が気に入らないと半獣人の子の胸をはねのけ、それに立腹した半獣人の子は鋭い爪を何も持たない人間の子に向けてしまいました。
すると人間の子の足から忽(たちま)ち、血が溢れて来ました。
痛みと恐怖で困惑した人間の子は泣き叫び、言ってはならない事を半獣人の子に向かって怒鳴りました。
……化け物と。
それを聞いた半獣人の子はショックでなりません。
人間の子を放って何処かへ走り去っていきました。
それを見ていた魔者は口許を醜く歪めたのです。
自分の力だけで、この世界を変えられないのなら、人間や半獣人の負の心を使えばそれが叶うのではないかと考え始めました。