吸血鬼の翼
暫くの間、商店街を見て回り一満足した美月は家路に向かった。
本の続きを読もうと考えている矢先、公園が見えてくる。
イルトやラゼキと出会ったあのグランドがある公園。
色んな事があったなと改めて思い返す。
初めて会ったイルトが女の子に見えた事や、妙にハイテンションな人だなとラゼキ対して警戒した事。
…そして、公園で会った訳じゃないけれど、クラウという冷酷な人に出会った事も。
あの時は状況が忙しなかっただけにあまり覚えてないが、怖い人だなと印象を受けた。
思いを巡らせる美月の目の端に不意に漆黒のロングコートを着た人物が映った。
振り向くより速くその人は美月の腕を乱暴に引っ張り、公園の中へと連れて行く。
「……っ…!?」
そしてフェンスの網に美月をぞんざいに叩きつけ、目を何かで塞いだ。
一瞬の出来事で何がなんだか分からない美月は体中に動揺が広がる。
震えた手はさっき商店街で買った本の袋を落としてしまう。
どうしよう…怖い、…誰か助けて…
目隠しされているので、視界は閉ざされ、それが更に恐怖を煽る。
まさか、あの失踪事件の…
自身の良からぬ考えに怯え切った美月はギュッと目を瞑る。
逃げるっていっても、体は震えて言うこと聞かないし、恐らく相手は男性だろう…体力的にも不利だと思った。
「おい女、吸血鬼は何処へ行った?」
すると耳元へ低い声が掛かった。
しかも、聞き覚えのある声。
この人はもしかしなくても、あの雨の日に会った人。
「……クラウね?」
美月がそう言うと視界を覆っていたモノが解かれた。
だが、完全に解放された訳ではない様で青年の手の平が美月の肩を強く握る。
その痛みに何とか耐え、相手を見ようと思いっ切り顔を上げる。
そこには思っていた通りの人物の姿があった。