吸血鬼の翼
噂をすれば影という奴だろう、先刻思い出していた所に当の本人が飄々と美月の目の前に立っていた。
「…私に何の用なの?」
相手が誰か分かって動揺はなくなるも、恐怖の対象には変わりない。
今も尚、震える体で必死にクラウに問う。
すると鋭い水色の瞳は真っ直ぐ美月を見据えて、肩から首へ手を移動させた。
クラウはゆっくりと美月の首を握り締め圧迫させる。
「探したけど見つからない…貴様の所にも居る気配がない。吸血鬼は何処だ?」
「…かっ…は…」
段々、強くなる手に思わず美月はクラウの腕を両手で握り締める。
だが、それも虚しく手に込められた力は一向に弱まらない。
「言え…言わないと殺す。」
「……らないっ…」
美月が絞り出した言葉を聞こうとして、クラウは首を絞めていた手を解いた。
空気を吸おうとして噎(む)せ返る美月はその場に倒れ込む様に座り呼吸を整える。
「何だと?」
「…っ…だから…知らないって…」
美月の言葉が信じられないらしく、クラウは訝しげに彼女を眺めた後、短刀を取り出した。
それを見た美月は驚愕して、腰を抜かしてしまう。
「嘘だな、殺されたいか。」
クラウは美月の傍にしゃがみ、短刀を首筋に当てる。
少し切れたのか、薄く皮が破れて血が滲んで来た。
激しくなる心音と体中から出る汗にそれでも、美月はクラウを強く睨み付ける。
「嘘なんかじゃないっ……もし、知っていたとしても…アンタなんかに教えない…」
涙で滲んでも、変わらない美月の強い表情にクラウは沈黙で返した後、短刀を下げた。
「…チッ」
舌打ちをしたクラウはその場を去ろうとして立ち上がる。
そして踵を返し、公園の出口の方角を淡々と歩いていく。
その後ろ姿を美月は目で追った。
「待って…!」
ふと気になっている事を思い出した美月は思わずクラウを呼び止めた。