吸血鬼の翼
イルト、何処に居るの…
私は聖女じゃないし、貴方の役には立たないけれど、
…会いたい…
私を置いて行かないで………お願い。
もう独りは嫌だよ…
風が自身の髪を撫でる感触がして、美月の瞼は無意識の内に持ち上げられた。
「……起きた?」
「……!?」
暫くして意識が戻った美月は眼前に迫る少年に驚いて思わず、身を引く。
「……だ、誰ですか?」
確かフェンス前で倒れてた筈じゃ…?
半ばパニック状態に陥った美月は少年に瞠目しながら、身振り手振りで慌てる。
よく見ると、端整な顔立ちをしていて、それが余計に美月から余裕を奪う。
いや、イルトやラゼキも充分、顔立ちは良かったけど……って思ってる場合じゃない!私の馬鹿!
蒼い瞳に新緑の髪…
そういえば、この少年はイルトから聞いた事のある人物に当て嵌(はま)る特徴をしている。
美月は恐る恐る目の前に居る少年に聞こうと口を開いた。
「……貴方、イクシスっていう人…?」
美月の問いに微妙に驚きを見せた少年は引いた美月に再度、迫ると顔を凝視する。
視線を合わせづらい美月は少年から目を逸らし、何とかならないか考えた。
「……聞いたの?あのバカに」
不意に掛かる声に一瞬、真っ白になった。
…バカ?バカって誰が?
疑問符を頭に浮かべた美月に少年は深い溜め息を吐いた。
「……イルトってバカだよ、知ってるんだよね…?」
「…え」
我に返った美月は再度、イルトの話を思い返す。
確かイクシスって子はイルトと仲が悪いとも聞いていた。
どうやら、この子は正真正銘、イクシスという人物だ。
2人の仲の悪さを実感した美月は思わず苦笑する。