吸血鬼の翼


「…何や、嬢ちゃん。知ってんのか?」

暫くの間、沈黙があったがそれを破る様にして青年は美月に言葉を向けた。

この人、イルトの事知ってる。
もしかしたら…イルトがうなされて言ったあの…。

美月は自分なりに推測して、青年の問いに答える事なく尋ねる。

「…あなた、もしかしてルイノって人?」

すると一瞬青年はハッと顔を曇らせたが、すぐに苦笑いを浮かべ言葉を返した。

「ちゃうちゃう。俺はルイノとちゃうで」

そう言われた青年は手のひらを横に振って否定する。
そして得意気になって拳を胸に当てて口を開く。

「よぉ~聞いとき!俺はなぁ、ラゼキやっ覚えといてな。」

「…。」

変にハイテンションな人…。

正直、こういうタイプは苦手だ。
彼が自分の世界に浸ってる間に、何とか気付かれない様にこの場を離れようと試みたが、それは叶わなかった。

「逃げようたってそうはいかんで、嬢ちゃん。イルトの事知ってんねんやろ?」

不敵な笑みを浮かべてラゼキと名乗る青年は美月の襟元を摘んで引っ張る。
少し青ざめた表情になり美月は心の中で悲鳴を上げた。
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