吸血鬼の翼
気が付くと家の前まで来ていた。
…と、言うより強引に連れて来られた―。
これからどうすれば、いいのだろうか…。
イルトだって万全な訳でもないし、…でも、知り合いらしいのだから少しは彼も元気が出るかもしれない。
美月は矛盾する思いを抱えながら、顔を曇らせて立っている。
「ほぉ…、ここにおんのか。イルトは」
ラゼキは顎に手を掛け家の周辺を物珍しい様に観察している。
イルトと似た反応…。
同じ世界に居た…のだろうか?
美月は彼の方に向いて不安と心配の入り混じった表情を見せる。
ラゼキは不思議そうに美月を見返した。
「何や?」
「あのね、私…貴方の事、お母さんにどう説明したらいいか分からない。」
おそらく今の時間くらいにはもう母は仕事も終わって家に居る筈なのだ。
唐突過ぎて、彼の事どう言えばいいのか分からない。
それに匿うのはイルトだけで精一杯だ。
するとラゼキは大声でカラカラと笑い出す。
驚いた美月は慌てて彼の口を塞いだ。
「ちょっと、大声出さないで!」
「すまん、すまん。けどな、そんな事心配せんでええで。」
ラゼキの言動に疑問を感じた美月は彼を凝視した。
どこに安全な理由があるのだろうか…。
「…どういう意味?」
美月がそう言うとラゼキはただニコニコするだけでその『方法』を教えてくれない。
「まぁ、見とき。」
そう言うと、ラゼキは手のひらを左右させる。
それにどんな意味があるのかは、わからない。
だけど、何か自信があるみたいなので、美月はそのまま足を進めた。