吸血鬼の翼
そう言ったイクシスの虚ろだった瞳は僅かに穏やかな色を宿していた。
間違いなく、イクシスにとってルイノは掛け替えのない存在なのだと改めて知る。
イルトに聞かされていたが、実際イクシスがルイノを慕っている気持ちを目の当たりにすれば一目瞭然だった。
否、それはイクシスだけじゃなくあの2人にとってもルイノは大きな影響を与えている。
そうじゃないと“この世界”にだって来ていないだろう。
リスクを背負ってまで、来るなんて誰もしない。
美月はそんな風に周りから必要とされているルイノに憧憬の念を抱いた。
「私も会ってみたいなぁ」
「……誰に?」
「あ!えっと…ルイノさんに」
思っていた気持ちが口を次いで出たのをイクシスが拾った事で自分自身に吃驚する。
言うつもりはなかったのに。
半ば、挙動不審に答える美月にイクシスは無表情で返す。
それが何となく痛い視線だと感じた美月は肩を竦めた。
彼の性格上、きっと独占欲が強いだろう。
疎まれるに違いない。
ああ、何で私はこう…
自分のドジさに嘆いているとイクシスは難しそうな表情を浮かべて口を開く。
「…みづきなら、ルイノに会っても良い…かな…?」
イクシスは自分でそう答えてみたものの、まだちゃんと整理出来ていない様で頭に疑問符が浮かんでいる。
しかし、そんな彼の予想外の返事に美月は少し驚くと目を瞬かせた。
てっきり、拒否されると思っていた。
ルイノに対する思い入れの強いイクシスからそんな反応が返って来るなんて。
驚きの反面、そんな風に言って貰えた美月は少し嬉しくなった。
…実際にルイノとは会えないとしても。
美月がはにかむ矢先、窓ガラスが強く揺れ始めた。
ガタガタと先刻より強くなってる音に美月は再度、驚いてそちらに視線を投げる。
「風、強いね。」
「………。」
美月の話を聞いているのかどうか分からない無表情の儘、イクシスはただ黙って窓の方向を見ていた。