吸血鬼の翼
* * *
町並み外れた荒野には誰も近寄らせないくらいの雰囲気が滲み出ている。
そんな殺風景な場所にポツンと小さな教会が建っていた。
室内はモップや箒(ほうき)等の掃除用具が乱雑に置かれており、窓も幾つか破損している。
どうやら、其処はもう誰も使っていないのだろう。
物置小屋みたいに荒れ果てていた。
そんな場所に1人の少年が呆然と立っていた。
華奢な体でも歩く度に軋む床に小さな不安が頭を掠めたが、それは直ぐに消えた。
今の少年にとってそんな事はどうでも良いからだ。
長椅子は相当に年季が入っているのか、今にも壊れそうな状態で役目を全う出来そうにない。
その事を悟った少年は床に足を放り投げた。
何かを諦めた様な朱い瞳が何処を見る訳もなく、漠然と荒れ果てた場所を映している。
この世界にも、教会はあるんだな。
取り留めもなくそう思った少年はただ日向に当たる事ない、この場所の感想を心の中で呟く。
いつまで、こんな日々が続くのだろうか。
淡い水色の髪を少し掻くと少年は両膝を抱えて頭を埋める。
そして眠る様に瞼を閉じた。
こうしているとまるで違う世界にいるみたいだ。
静かな世界―
誰も侵入出来ない自分の世界。
「……欲しい…」
それは本能の儘に
それは欲に従順な
それは逆らえない性
一生解放される事のない宿命
以前より少し痩せた体は枯れた木の様で頼りない。
自分でも、どうしていいか分からない。
欲しいのは確かで、生きて行くには必要だ。
だけど、そんな事をしたくないと気持ちが本能を抑止する。
もう誰も傷つけたくない。
自分を送り出す為に負傷した司祭を。
弟と慕ってくれる魔術師を。
何の隔たりもなく笑い合える人や、仲は良くないけれど嘘のない人に。
それから、それから…
「……頼むから、諦めてくれよ」
この世界にも尊い人が居る事を改めて思い知る。
手を引いてくれたあの優しく狂おしい存在。
帰りたいと思う場所。
未だに自分の心を乱すあの眩しい光。