吸血鬼の翼




翌日、学校へ行くと予想通り昨日の失踪事件の事で話題が持ち切りになっている。

同じ学校の生徒が失踪した事により、女子生徒達の顔は優れない。
只でさえ、妙な失踪は女子高生というだけで標的対象になっているのだ。
平気な訳がない。
学校の雰囲気はいつもの活気もなく、妙な静けさが空間を支配している。
美月が教室に入れば、待ち構えていたのか千秋が一番端の窓際の後ろに立っていた。

「ねぇ、美月。今日一緒に帰らない?私…怖くて」

勿論、昨日のニュースを千秋も知っていて動揺している様だった。
表情も真っ青で肩も少し震えていて何時もの千秋の元気さが影を潜めている。

美月はそんな彼女の手の平を大丈夫だと伝える為に強く握り締めた。

「うん、いいよ。」

「…ありがとう」

そこで漸く落ち着いたのか、千秋は安堵の溜め息を吐いた。

「でも、佐々木君じゃなくて良いの?」

「ちょっと美月!何でアイツの名前が出て来るの!?」

少しからかう様に笑ってみせると千秋は顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

全く可愛いなぁ。

にっこりと笑う美月を見て、千秋は思わず顔を悲しく歪める。
繋いでいた手を引き、千秋は美月を強く抱きしめた。
その行動の意味が分からず、美月は目を点にさせた。

「どうしたの?千秋、大丈夫?」

「…村田さんて私の部活の後輩なの…身近の人が居なくなるなんて怖いよ。」

千秋の小刻みに震える肩を美月は手の平で小さく宥める。
皆、怖いよね。

「美月だけは居なくならないで…急に消えたりしないでね。」

「……千秋」

言われると思っていなかった言葉。
美月の肩先に埋まる千秋はまるで子供みたいだ。
自分の事を本当に心配してくれる千秋の様子にじんわりと胸に温かいものが広がる。

「当たり前でしょ、私は大丈夫だよ。千秋こそしっかりしなよ。」

「…うん。」

今まで何をそんなに虚しいと思っていたのだろう。
私には大切な親友がいるじゃないか。

美月は今まで虚無感を抱いていた自分に叱り、心の中で千秋に謝った。


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