吸血鬼の翼
「………何してるの?」
半ば言い争いになっていた美月と佐々木の横から無気力な声が掛かる。
反射的に佐々木はその声がする方へ振り向いた。
そこには新緑の癖のある髪に透き通った蒼い瞳を持つ少年が此方を気怠そうに見ている姿があった。
しかし、冷静さをなくしている美月にはその声が届いていない。
美月が我を失っていると察した少年は静かに2人の元へ歩み寄った。
彼女を落ち着かせる為に少年は佐々木の手を払い退ける。
それから美月の背中を軽く擦ってやる。
「…みづき、ダイジョウブだから、ね…」
「イ、クシスく…」
目線を同じくらいに合わせ頭を撫でてやると美月の瞳からじんわり涙が浮かぶ。
どうやら、少し高ぶった気持ちが安定した様子で足掻いていた彼女は次第に鎮まっていった。
それを見た佐々木は益々、状況の展開について行けず、頭には沢山の疑問符が浮かび上がる。
「篠崎、誰…?」
「え、ああ…えっと私の友達!」
佐々木は眉間に皺を寄せると美月にイクシスの事を聞く。
挙動不審になりながらも、適当に繕った美月はイクシスの事を紹介する。
佐々木の視線に構わず、イクシスはぼんやりと美月の隣に並んだ。
「……また随分と派手な友達だな?」
「あはは…」
珍しそうにイクシスを見る佐々木に美月は笑って誤魔化すしかなかった。
真実を話したとしても、信じてくれるか危うい事だし、今はそんな悠長に説明している場合ではないと判断したからだ。
「イクシス君、何で外に出てるの!?」
美月はイクシスにしか聞こえないくらいの小声で叱りつける。一方のイクシスはそんな美月の非難に堪える素振りはない。
いつもの眠たそうな表情で悪びれもなく鷹揚に口を開く。
「……暇だったから」
「………。」
そういえば、この子はこういう子だった。
理由を聞いた美月はイクシスの性格を思い出した様で自分の言った事が無駄だったと後悔した。