吸血鬼の翼




「……みづき、何やってたの?」

イクシスには先程のやりとりの方が気になっていたらしく、ゆっくりとした口調で美月に問う。
すると再び、美月の表情は曇って行き、イクシスの服の袖を震えながら掴んだ。

「千秋…“呼んでる”とか“行かなきゃ”って妙な事を言ってどっかに行っちゃったの。探しに行かなきゃ!見つけなきゃ、千秋が消えちゃうよ!」

「消えるって…篠崎、どういう事だ!?」

美月の言葉に引っ掛かるものがあった佐々木は一気に動揺の気持ちで溢れた。
そんな佐々木に対して顔色を悪くして美月は口を開く。

「…千秋も失踪事件に関わっているかもしれないの」

「嘘だろ?篠崎…何でそう思うんだよ」

佐々木の反応は納得出来ないというより、信じたくないみたいで顔を歪める。

問われた美月はただ困惑でいっぱいのまま、上手く説明出来ずに黙って俯いていた。

自分でも何でそう思うのかは分からない。

だけど、夢で聞いた声に千秋が失踪事件の標的にされたと告げられた気がして仕方がないのだ。

「……その可能性はあるかもね。」

2人のやりとりを見て、大体の話の流れを理解したイクシスはそんな状態の佐々木に構わず、美月の言葉を肯定する様に淡々と口にした。

無表情で答えたイクシスにカッとなった佐々木は彼の胸元を乱暴に掴み上げる。
佐々木はギリギリと険しい顔をイクシスの顔に突き合わせた。

「テメェッ…ふざけんな!何も知らない癖に」

「佐々木君、止めて!!こんな事してても千秋は帰って来ないよ!」

掴み上げられた本人よりも、動揺している美月は慌てて止めに入ろうとする。
しかし、佐々木は頭に血が昇っているらしく、美月の言葉に耳を貸さなかった。

それでも割って仲裁しようとする美月にイクシスは左手でそれとなく制止する。

「…いい加減に分かりなよ、こうしている間にもその子本当に居なくなるよ?」

「…ッ」

飽くまで、平静なイクシスに佐々木は何も言えなくなり、舌打ちする。
掴んでいた手を粗雑に離すと苦虫を噛んだ表情を浮かべた。


< 162 / 220 >

この作品をシェア

pagetop