吸血鬼の翼




「…千秋をどうやって見つけんだよ?」

佐々木は美月の話した失踪事件に千秋が絡んでいる事を否応なく、自分自身に理解させた。

そんな彼を見ていると美月は何だか申し訳ないと思ったが、今は千秋の身が第一だ。

「…とりあえず…えっと」

ただがむしゃらに走り回っても仕方がないと今更になって気付いた美月は見つける方法を必死に考える。

「…ダイジョウブ、探す手立てならあるよ」

言葉に詰まってる美月に助言するとイクシスは淡々と喋り出す。
美月は思い掛けない事に一瞬、驚く。
しかし、藁にも縋りたい美月にとって今のイクシスはとても頼もしく見えた。

「その手立てって何?」


「……風の匂い」

「何だよ、ソレ。言ってる意味分かんねぇよ」


イクシスの言葉に佐々木は厳しく批判する。
訝しげに見やる佐々木を無表情で返すイクシスは気怠そうに口を開いた。

「…香の匂いがする」

「香水とかの?」

イクシスの言葉に透かさず、美月はそれらしいものを指す。
しかし、違ったみたいで左右に首を振ると北の方角へ体を向けた。

「……もっと異質なもの…」

遠くを見つめる蒼い瞳はまるでその場所を知っているかの様に真っ直ぐ北を見つめる。
美月と佐々木にはイクシスの言う内容が理解不能で首を捻った。

「ソレ、宛になんのかよ」

いい加減、痺れを切らした佐々木は苛立ちを隠せない様子でイクシスを軽く睨む。
すると、イクシスは体を此方へ戻した。

「……信用しなくて良いよ、別に……ただ闇雲に探すよりはマシってだけ…」

説得力に欠ける口調とは裏腹に言っている事は尤(もっと)もらしかった。
それに何処か棘のある物言いに又しても、佐々木は苦い表情を浮かべる事になる。

「と、兎に角、イクシス君の言っている通りにしてみよう!」

下手すれば、一触即発の状況に美月は出来るだけ喧嘩を避ける為に無理やり次へと促した。


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