吸血鬼の翼
先刻よりテピヨンの匂いが辺りに充満して気持ち悪い。
流石に免疫があるイクシスでもこの濃度には参りそうになった。
リフィアは表情を緩めてイクシスの背後にある廊下を一瞥する。

「坊やの他にあと2人いたわよね…その中に女の子がいたでしょ?」

「…………。」

イクシスが無言のまま、答えずにいるとそれを肯定と捕らえたのだろうリフィアは妖しい笑みを浮かべた。

「ついでだから頂いちゃおうかしら!」

「……止めろ…」

両手を楽しそうに合わせるリフィアにイクシスは鋭い眼光で彼女を射抜く。
その蒼い瞳に一瞬、臆したリフィアだったが此処で簡単に下がる程甘くはない。

「なぁに?なんでその子は駄目なの?」

「…………。」

リフィアは穏やかな表情でニッコリと微笑むが、イクシスの神経を逆撫でしている笑いとも取れる。
そんなリフィアにイクシスは口を閉ざして黙り込む。

みづきには恩があるから…

そう異世界に来てから、美月の家で世話になっているからだ。理屈ではそうなるのだろうが、いまいち、しっくり来ない。
本当にそれだけなのか。

仲間、とでも?

ここ数日、出会ったばかりの人間にそんな感情が沸くのだろうか。
自身へ問い質すも、やはり明確なものは何もない。

「分からないんだったら、頂戴よ?」

いつまで経っても答えないイクシスに痺れを切らしたリフィアは美月を催促する。

「……やらない…」



イクシスは自身にも聞かせるみたいに却下の言葉を発した。

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