吸血鬼の翼

領域

自分でも信じられない様な言葉が出てきた事に驚いたイクシスは暫し、呆然とする。

「……?」

訳の分からない気持ちにイクシスは眉を寄せて首を捻った。
それを見ていたリフィアは流石にたっぷりの沈黙に苛立ちを見せる。

「まぁ、無駄な足掻きだけれどね。一度入った者は出られない様に結界を張っているもの。このビルに入った以上、逃げる事なんて不可能よ!」

何処か投げ捨てる様に言い放ったリフィアにイクシスの眉間の皺が徐々に刻まれていく。

「残念でした。所詮、貴方達は籠の中の鳥って事!」

「……知ってる…」

「何ですって!?」

イクシスの発言にリフィアは逆に不意を突かれた事に吃驚して目を見開く。
この少年は分かっていながら、このビルへと進入したというのだろうか。
そんなの、余程頭の悪い奴か何か切札を持っているとしか考えられない。

「貴方達、一体…」

「……捕まえた人間は何処に居る?…」

漸く、イクシスに対して警戒心を意識し、その正体を問い質すが当の本人は相変わらずの無表情で再度、逆に質問が返って来る。

一向に話が噛み合わない相手にリフィアは頭が痛くなった。
無気力そうなイクシスの顔を見てたら先刻、考えていた前者の方に該当するんじゃないかと思い始めた。

「フフ、そんなの教える訳ないじゃない!顔は良いけど、頭は悪いのね、坊や。」

嘲笑気味に笑うリフィアの声は踊り場に響き渡り、イクシスの耳を刺激する。

しかし、リフィアが笑い終える頃には目の前に居た筈のイクシスの姿が忽然と消えていた。

怖じ気づいて逃げたのかしら?

リフィアの紺の瞳は楽しそうに光る。
“彼女等”にとって獲物を追う時が一番の逸楽なのだ。

此方を通り過ぎた気配はなかったのだから、来た道を引き返したか。

長い足を前に出し、静かにコツコツとブーツを鳴らしながら歩き始めた。

その瞬間、リフィアの背後から首をトンと手で突かれる感触がした。

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