吸血鬼の翼
「……やる事がある…」

「何を?」

イクシスがポツリと零した言葉をリフィアは見逃さずに聞き返す。
それに返事する様子等なく、イクシスはポケットから何かを取り出した。

リフィアがその行動に警戒していると何の事はない、ただの紙切れの様だった。
思わず、安堵の溜め息を漏らしたリフィアの両手首を素早く掴み上げると無理やり立ち上がらせる。

何の真似だとリフィアが混乱している最中、イクシスは彼女の両手首を後ろへやると先程取り出した紙切れをそこへ貼り付けた。

「…な、によ、コレ!」

「…拘束符…法具の一種…逃げても無駄だよ…引力でオレの所に戻って来るから……」

イクシスが淡白に話してるのを余所に破ろうと手を捩り、何とかして抜け出そうとする。
しかし、全く剥がれる気配はない。
そればかりか、磁石みたいにくっ付いて離れなかった。
迂闊だった。
油断した自身を恨む。

「…どうするつもりなの!?」

「…捕まえた人の居場所まで…案内してもらう…」

「私がそんな事すると思う!?」

リフィアは紺の瞳にイクシスを映した。
しかし、当の本当は飄々とした態度でリフィアの背中を強く押して歩かせる。

「……しないと殺すよ…」

先刻、自身に見せた冷酷な蒼い瞳がリフィアを捕らえる。
殺意を出す事に躊躇いのない恐ろしい少年に見えた。
背筋がゾッとする様なイクシスの視線に耐えきれず、リフィアは逸らす。

「………分かったわよ。」

青ざめたリフィアは観念したらしく、渋々と暗闇の中へ歩き出した。

イクシスはリフィアの後ろについて歩く前にもう一度振り返る。

「…それにダイジョウブだから…」

ポツリと呟いた声は誰の耳にも入らず、冷たい空気の中へ消えていった。


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