吸血鬼の翼
* * *



暗い廊下には走る音が木霊する。
息を切らしながら、ただひたすら走っていた佐々木は違和感を覚え始めていた。

「…さっきも通った場所だよな?」

「……うん。」

首を左右に振り、今居る現在地を確認する。
ぐったりしていた美月だが、辛うじて答える。
しかし、この廃ビルは何処もかしこも似たような構造をしているので確かな事は言えなかった。

しかし、そこでやっと“変”だと理解した佐々木は胸中に一抹の不安を感じていた。

「畜生…どうすれば外に出れンだよ。」

眉間に皺を寄せて何か打開策はないかと考えていると不意に足音が後ろから聞こえてきた。

ゾクリと鳥肌が立つ様な気配に一瞬、顔を強張らせた佐々木だったが近くにあった部屋の引き戸を開くと素早く中へ入る。

「……どうしたの?」

思考が充分に回らない美月はただぼんやりと佐々木へと話しかけた。

「誰か来る。」

暗闇の上に得体の知れないモノを肌で感じた佐々木は額から汗を流す。
走り回った所為もあり、少々、呼吸が乱れている。

一先ず、美月を室内の壁へ凭れさせると段々此方に近づいて来た足音に佐々木は耳をそばだてた。

静かな足音だというのにいやに頭に響く。
煩くなる心音に佐々木は息を殺しながら、“誰か”が通り過ぎるのを待つ。

カツカツカツ…

先刻より大きな足音で今、自分達の横を歩いているのが分かった。
佐々木は息を漏らさぬ様に必死に努める。
朦朧として状況を把握出来ずにいた美月はただ見守るしかなかった。

やがて、足音が遠退いていき、それを見送った佐々木は胸を撫で下ろす。
緊張してた分だけ息を吐き出した。

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