吸血鬼の翼
「何なんだ?此処…」

「……分からない。」

“何故か”体調を悪くした美月に何時まで経っても出口のない迷路の様な廃ビル。

それに先程の気配。

一体、このビルで何が起きているのか見当もつかない佐々木は頭を悩ませる。

このままでは、千秋を助けに行けない。
ただ、焦燥感が膨らめばそれが苛立ちへと変わる。
佐々木は今度は美月を背負うと引き戸をゆっくり開く。

左右に首を振って辺りを注意深く見渡した。

自分には迷ってる時間なんてない。

そう思った佐々木はとりあえず、足音が消えていった方向とは反対の廊下を歩き始めた。

「……ごめんね、佐々木君…」

「大丈夫、気にすんな!篠崎、軽いし全然平気だ。」

背中から消え入りそうな美月の声が聞こえて来たので、思わず佐々木はフォローを入れる。

「……ありがとう、絶対に千秋を助けようね」

「ああ、勿論!」

気を落とさない為に美月は精一杯、声を出す。
そうしないと、本当に滅入りそうになるから。
それだけは避けたい美月は千秋を頭に浮かべながら、気持ちを高揚させる。



その刹那に2人の背後から忍び寄る影が1つ。



「どうやって助けようと言うんだ?」

「誰だ!?」

不意に聞き慣れない低い声が後ろから聞こえて来た事に驚いた。
佐々木は反射的に振り向こうと体を捻らせようとする。

しかし、それも虚しく体はピクリとも動かない。
まるで金縛りになったみたいだ。

「…な…んだよ、コレ?」

声だけは何とか出せた佐々木だったが、見えない恐怖の為か口元を戦慄かせた。



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