吸血鬼の翼

救出

「悪趣味やなぁ。」





ポツリと呟く声。

それが殺伐とした雰囲気の中で響いて来た。

またもや、暗闇の中から自分達以外の声を聞いた美月や青年は驚いて目を見開いた。

カツカツと靴音が鳴っていた方角へ直ぐ様、視線をやるがそこには誰も居ない。

ドサッ

美月の背後から、床に倒れた音が耳に入る。
小さく呻く声が聞こえて来た。
それは佐々木のモノだと知るのに時間は掛からなかった。
そう、“何者”かの手によって佐々木は解放されたのだ。

「…誰だ?」

頻りに辺りを見回す青年は相手を見つけられない事から苛立ちが募る。
一方の美月はもしかしてと期待の気持ちでいっぱいになった。

何故なら、さっきのあの声は聞いた事があるから。
あの癖のある喋り方や声からして、自身の記憶に該当するのは1人だけ。

「……何処なの?」

美月はまだ涙を瞳に溜めたままで姿を見せない者を見る為に必死に呼び掛ける。

力の出ない美月はただ目の前に現れてくれる事を願った。
気配だけが漂う暗闇にいい加減痺れを切らした青年は無数の糸を廊下全体に張り巡らした。

引っ掛かったモノがあれば、それでゲームセットだ。
金の瞳を妖しく光らせ、糸の先まで神経を尖らせる。

「さあ、観念しろ。逃げ場はないぞ」

クツクツと喉を鳴らして笑う青年は何処か不気味で恐ろしかった。
美月の胸中に再び不安が宿る。高まる鼓動が煩くて頭がどうにかなりそうだ。

お願い…助けて!

やっと見出せた期待の光に縋って美月は強く祈り続けた。
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