吸血鬼の翼


「やはり貴様か、魔術師。」

「気付くん遅いわ。」

どうやらラゼキと知り合いの青年はバルという人らしい。
そういえば、前に過去について話に聞いたのを今になって美月は思い出した。

ラゼキは後ろで倒れている佐々木を背負い、美月の手首を掴む。
バルはそんな事に構わずに美月を一瞥した後、ラゼキを見やった。

「成程、その小娘はお前達が先に手に付けたモノか。」

「嫌やな~人を物扱いする奴は器が小さくて、な。バルちゃん。」

ラゼキが茶化す様に彼の名を呼べば、バルの眉間に皺が刻み込まれていく。

「バルノイズだ、痴れ者めが!」

神経を逆撫でされたバルノイズは怒りが頂点に達したらしく、素早く片足をラゼキの胴体目掛けて放つ。

しかし、ソレを横へ跳んで躱したラゼキは美月達を連れて一目散に階段に向かい走り出す。

当然、バルノイズは逃がすまいとして追い掛けて来る。
それを見るなり、分かってはいたものの、ラゼキは舌打ちを漏らさずにはいられない。
走るのを中断した後、ラゼキは美月を放して手をバルノイズへ差し出す。

「嬢ちゃん、目ぇ瞑っとけや!」

「‥え、うん?」

美月は訳も分からず、ただ促されるままに瞼を閉じた。

「レイト!」

ラゼキが呪文を発した刹那、指先から強烈な閃光が放たれ、バルノイズの目を襲う。

「…っ…」

視覚を麻痺され、足を取られてしまったバルノイズはその場から動けなかった。

その隙をついて、ラゼキは佐々木を背負いながら、美月の腕を引いて振り返らず走る。

「やっぱ、ハンデがあるんは、キツイわ。一遍、逃げるで!」

「……う、うん‥」

今の状況に戸惑いつつも、よろめく足を奮い立たせて美月はひたすら付いて行く。




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