吸血鬼の翼
先程の空間から、切り抜けた美月達は幾度かの階数を上り詰め仮眠室という部屋を見つけた。

ラゼキが引き戸をゆっくり開けると中の様子を確かめる。
そこには二段ベッドが備えられており、その脇に長方形のテーブルやソファが置かれてあった。

暗がりだというのもあるが、飾り気のない簡素な作りの部屋だった。

疲労困憊の美月と佐々木を休ませるのに丁度良い場所だと知ったラゼキは2人を中へ入れる。

取り敢えず、美月をソファへ促し、佐々木をベッドへ寝かしてやる。

佐々木は意識を失っており、表情は真っ青になっていた。
美月も催眠が掛かった状態で気分が優れない。

佐々木が寝てるベッドの脇に腰を下ろしたラゼキは深い溜め息を吐く。

「…ラゼキ…」

「久し振りやな、また会う思わんかったわ。」

怒ってる。

体力を消耗した所為もあり、更に美月の意識は朦朧としていた。
視界が霞んで顔は窺えないが、声と雰囲気で伝わって来る。

当たり前か、私、足引っ張ってるもの。
イクシス君や佐々木君にも心配かけさせた。

「…ごめんなさい。」

この人には謝ってばかりだ私。

あの雨の日も怒られた。
後先、考えずに行動して迷惑を掛ける。
進歩ないなと心の中で自身を諌めて、その事から美月は俯く。

「ホンマにちゃんと分かってるんか?」

「………ごめんなさい。」

ラゼキの問い掛けにただ美月は謝罪の言葉しか見出せなかった。
それを見兼ねたのか、溜め息を吐いた後、ラゼキは美月の座るソファの傍らまで足を運ぶ。

「ちゃうやろ、嬢ちゃん…そうやない。」

「…分からないよ…」

ラゼキの言葉の意味を理解出来ない美月は苦悶の表情を浮かべて唇を噛み締めた。


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