吸血鬼の翼
* * *


もう何年も使われていない様な物置小屋と化した舞台裏の中へと入る。
薄暗い空間の其処へイクシスは無造作に倒れていた少女達を目にした。
その中にはテレビで報道されいた少女達の顔があった。

全員合わせて5人だ。

どうやら、意識はなく皆、青白い表情を浮かべ瞳を固く閉ざしている。
生気の感じられない少女達に一瞬、イクシスは眉間に皺を寄せたが、呼吸をしている事に気付き安堵の溜め息を漏らした。

「フフフ、驚いたの?大丈夫よ、この子達は皆“聖女の候補”なんだから、無闇に殺したりしないわ」

リフィアはイクシスの様子を見て、可笑しそうに笑う。
そんな彼女を後目にイクシスは少女達の容態だけを蒼い瞳に映す。

「……危害を加えてるみたいだけどね…?」

少女達が倒れている所にしゃがみ込んで、イクシスは1人の少女の髪を払う。
その子はつい最近、失踪した村田 美佳、本人だった。
彼女の肩まで掛かる黒い髪の隙間から見えた首筋には小さな2つの穴。

何かに噛まれた後が確かにそこに存在していた。
まるで己の“所有物”だと印を残す様な禍々しい主張。


以前に見た事があるそれは吸血行為に出来る物に違いはないと判断出来た。
案の定、その“印”は他の少女達にも刻み込まれている。

「お腹空いたのよ、…尤も私はそんな事しないけど、ね」

銀の瞳を妖しく光らせ、リフィアは淡々と喋る。
人間の事を“餌”か“道具”としか思えない表情を浮かべていた。
反吐が出るってこういう時に言うのか、イクシスは他人事の様に頭の片隅でぼんやりと思う。

「……生きてるなら、別に良い…」

イクシスから発せられた口調は酷く淡泊なモノだったが、蒼い瞳には穏やかな色を宿していた。

この子達が生きていると知れば、みづきもきっと喜ぶ。

その表情は丁度、ルイノがする穏やかなものに似ていた。
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