吸血鬼の翼
不意に広間に扉の開く音がイクシスの耳へと届いて来た。
リフィアも其方に気を取られて舞台裏の小さな扉を開けて広間へと出る。
すると、入り口に見えたのはラゼキを先頭に美月や佐々木の姿もあった。

「イク坊!」

ラゼキがイクシスの姿を見た途端に大きな声で呼び掛けた。

「……イクシスだって…言ってるのに…」

呼び方が気に入らないらしく、イクシスは口元を尖らせる。
美月と佐々木はイクシスの元へと駆け足で向かう。

「イクシス君、ごめんね…大丈夫だった?」

美月は直ぐ様、イクシスに怪我はないかと尋ねる。
佐々木も1人にした事から、思案の瞳を浮かべていた。

「………ダイジョウブ…」

2人の心配を素直に受けて、イクシスは穏やかに答える。
安堵の溜め息を零した美月は自身へと向けられている視線を感じた。
ふとイクシスの後ろにいるリフィアへと目をやった。

「…誰、なの?」

「初めましてね?お嬢さん、リフィアよ。」

紺の瞳は美月だけを映していた。
リフィアの笑う表情は獲物を狙う時と同じもの。
イクシスはそれに気付いていたので美月を自身の後ろにやった。

「イクシス君?」

「……コイツは“敵”だよ…近づかないで…」

佐々木も何となくだが、感じ取っている様子でリフィアを訝しげに見つめる。

そして、リフィア越しに舞台裏の扉を目にした佐々木はその奥を遠目で覗き込んだ。

人形なのだろうか?
“何体”かそこへ放置されている様に見えた。



「何だよ?アレ…」

「……そこに失踪していた子達がいる…」

イクシスに説明を受けた佐々木は血相を変えて、扉へと走る。美月も後を追って中へ入って行った。

< 201 / 220 >

この作品をシェア

pagetop