吸血鬼の翼
「…ッ」

「佐々木君、大丈夫!?」

千秋を受け取る際に腰を強打したらしく、苦悶の表情を浮かべた佐々木は歯を食いしばって堪えた。

「…大丈夫だ、それより千秋を」

痛みに苦笑を漏らす佐々木は自身より千秋を優先して美月に差し出す。

血色が悪い千秋だったが、呼吸はちゃんとしている。
生きている。
それだけの事が嬉しくて千秋を抱き締めた。

「……みづき、早く行こう…」

不意に頭上からイクシスの声が掛かり美月は顔を上げた。
腰が痛くて動けない佐々木をイクシスが半ば引きずる様にして舞台裏の扉を目指す。

美月も躊躇いながらも千秋の腕を自身の肩に回し、舞台裏の扉の中へと入って行った。

「…普通じゃねぇよ、アイツ」

「え?」

佐々木の漏らした言葉に美月は誰を差しているのか分からなかった。
ただ眠る千秋を抱き締めて佐々木を見やる。

「さっきの紫色した頭の奴…人の体をあんな風に軽々と放り投げるなんて尋常じゃねぇ」

「……そうだね」

横たわる少女達の傍らで佐々木はズルズルと座り込んだ。
美月もその直ぐ近くの壁に千秋を凭れさせる。

ふと美月の脳裏に男の“お腹いっぱい”と言った言葉が過ぎった。

確認した時に見た他の少女達の首筋に小さな傷。

彼は…吸血鬼だ。

千秋の首筋を見つめれば小さな2つの穴がある。
血を吸われた所為で千秋はこんな事になった。

ごめん、ごめんね、千秋…ちゃんと守れなくて。

目の奥がジワリと熱くなるのを感じて美月は意識のない千秋をもう一度強く抱き締めた。

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