吸血鬼の翼
これまでで、こんなに良い気分になった事は今までにあっただろうか―。
喜びに浸っていた美月の耳に母の呼ぶ声がぼんやりと耳に入って来る。
「美月~、お菓子部屋に持って行くわね」
その声で覚めた様にビクリと肩を動かした。
チラッとラゼキに一瞥をするとニコニコッと笑っている。
大丈夫だと安心した美月は母の話しかけに応答する。
「うん、ありがとう。」
母と他愛のないやり取りをしていた美月を見て何か言いたそうにイルトは見ていた。
「…どうしたの?」
「オカシって何?」
好奇心に満ちたその表情に答えようと何て説明したらいいか、考えた。
「…甘い‥食べ物…なのかな」
しどろもどろになりながら、美月はそう言った。
何故なら、甘くないお菓子だってあるし…。
イルトは美月の言った事をそのまま素直に受け止めている。
何か複雑―。
どう言うべきか悩んでいたが、他に疑問になっていた事を思い出した。
そして美月はラゼキの方に振り向くなり、両手を床に叩き付ける。
「…忘れていたけど、ラゼキ…お母さんに何したの?」
今更だけど…だって母はラゼキの事を知らない。
…なのにまるで前からの知り合いみたいで妙な感覚。
イルトの事は隠してあるから当然知らないが。
ラゼキも思い出したのか、拳で手の平を軽く叩くと美月の問いに答えた。
「“アレ”はな、催眠術みたいなもんや」
…と人差し指を立てて、簡単に美月に説明する。
テレビで能力者の出ている番組が頭に過ぎり、あんな感じなのかなと美月はそう思った。