吸血鬼の翼
公園に入るといつもと変わらない光景だったので美月は辺りを見渡してみた。
「気のせいかな…?」
ううん、確かに聞こえたはずだ。
再度、首をひねらせ足を進めていく。
すると、公園の仕切りのあるグランドで、ジャリッと砂を摩擦した様な音が耳に入って来る。
それに不安や恐れはあるものの、不思議な事にいつの間にか美月はグランドのドアを開けていた。
「!」
夜なので暗くてよく見えないが、微かな月明りの中、グランドに人影を見つけた。
「…ぁ」
美月は怖くて思わず声を上げそうになったが慌てて両手で口を塞いだ。
そう…そこには確かにいたのだ『人の形』をしたものが…
だが、背中に何か違和感を感じさせるものが付いている。
美月は好奇心だけで無防備に"その影"に近付いた。
すると息を切らしている声がハッキリと聞こえて来る。
苦しいのか、美月は誰かも分からない相手に恐怖を抱いたが、もしかしたら“その人影”は危険な状態なのかもしれない。
「あの…、大丈夫?」
いてもたってもいられずに心配して声を掛けるとその人は倒れ込んでしまった。
しかし、意識はちゃんとあるのか、こちらを見て何かを訴えかけて来る。
「…何?」
気になった美月はしゃがみ込むとその人に手を掴まれ引っ張られてしまった。
唐突な相手の行動に驚愕と恐怖が美月の思考を支配した。
「なっ…!」
「…ぃ」
その人は再度、美月に話しかけて来る。
パニックしていた美月だが、危険がないと察知した。
そしてその人の腕を掴んだ瞬間、生暖かい液体が手に触れる。
鉄の様な匂いでその辺りは充満し、鼻の感覚が麻痺してしまう。
よく見れば、その液体は赤色だった。
血─。
それ以外に考える事はないだろう。
美月は勇敢にも相手の容体を見ようと肩を掴み上げる。
体型的に男の人だ。
見た所、年頃は美月と同じ位の少年だ。
一見、華奢に見えたから女の子だと考えたが、的が外れた。
なんて思ってる暇もないが…。
「待ってて…!今、救急車呼ぶから!」
ポケットから携帯を出そうとしたが、少年にそれを制止された。
「どう…」
美月が言葉を言いかけたその時、首筋辺りに少年の髪が掛かる。
「血が欲しい…」
そこから美月は何が起こったのか分からなくなってしまった。