吸血鬼の翼



「きゃっ…!」

美月は瞼を固く閉じ、驚いてその場にしゃがみ込んでしまった。
イルトは中腰になり、美月の肩に手を置くと心配しているのか思案の瞳で彼女の顔を覗く。

「大丈夫か!?…こんなに震えてる。」

美月は声を出さずに頭を縦に振り、小さく蹲る。
雨が降るとは予想していたが、落雷までは考えてなかった。
怯える美月を嘲笑うかの様に再度、空から雷が鳴り響く。

「…おい、イル。何かおかしないか?」

ふと、ラゼキがイルトの背後で何かを呟いた。
それに反応したイルトが立上がり、外の様子を調べる様に窺う。

「…そうだな、不自然だ。この雷…何かの気が混じってる。」

「もしかしなくとも“あっち”からのお客さんやろうな」

“あっち”からの…?

一体、何で―?

美月は肩を抱えていた手をイルトの服まで運び、やっとの思いで掴む。

「…ミヅキ?」

美月は下に向けていた頭をゆっくりと擡げると不安気にイルトの顔を見やる。

するとイルトはニコッと微笑んで美月の肩に置いていた手を大丈夫だと言う様にポンポンと軽く叩く。
それから、気持ちを入れ替えたのか、イルトは真剣な表情を浮かべるとラゼキと顔を見合わせた。

「ラゼキ…」

ラゼキはフッと笑って美月とイルトを見つめる。

「心配せんでええ、俺が行ってくるから、イルは嬢ちゃんを頼んだで。」

それだけ言い残すとラゼキは駆け足で部屋から出て行く。
美月とイルトはドアが静かに閉まっていくまで見届ける。


外は次第に薄暗くなって雨が降り、雷鳴が轟いていた。


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