吸血鬼の翼

雨は益々激しさを増す。


窓の硝子は雨に打たれ、外がぼやけてよく見えない。
こんな天気の中ラゼキは何処に向かっているのだろうか―。

『心配しなくていい』と笑っていたけど、やはり彼の身が気掛かりだ。

「ミヅキ…」

「え?」

美月はイルトに声を掛けられ振り向く。
ベッドに腰を下ろし、伏し目がちな彼の瞳は美月と似た様な不安の色をしていた。

ラゼキはイルトの仲間だもの…心配して当然。

美月はただイルトに言葉を返されるまで沈黙している。

「俺やっぱり、ラゼキが心配だ。」

「…うん。」

頼りになると思うけど心配してしまう。

彼は大丈夫なのだろうか?

怪我をしていないだろうか?

その“異界”から来た人は何者なのか?

疑問や不安ばかりが頭の中に過ぎる。

美月とイルトは暫く目を合わせていたが、突然彼はベッドから立上がり、部屋のドアのノブに手を掛けた。

「…行くの?」

「ああ…。」

美月に背を向けたまま、イルトは静かに頷く。
美月はそのまま部屋から出て行こうとする彼の腕を両手で強く握り締めた。

「…行くなら私も連れて行って!」

美月は怒鳴る様な大きな声で彼にそう言った。
案の定、イルトは困った顔をして美月を見る。

「でも…」

「ラゼキに言われてたでしょう!私を頼むって…だったら一緒に連れて行ってよ!」

興奮している所為か、顔が赤く染まり息を切らしながら今にも泣き出しそうになる。

私だって彼の事が心配で仕方がない。

知り合ったばかりだけど、長い間、一緒にいるクラスメートや周りの人より不思議と親しみがあるのだ。

イルトは溜め息を吐いた後、美月の頭を優しく撫でた。

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