吸血鬼の翼
「…分かった、一緒に行こう」
イルトは再度、美月の頭をポンポンと軽く叩いた。
美月は溢れていた涙を手の平で拭い顔を擡げる。
「ありがとう…」
その一言だけ口にすると、美月とイルトは家から飛び出し早足に落雷の轟いている場所に向かった。
美月が手にした2つの傘を開けると、先ず自分の分を持ち、そしてもう1つをイルトに渡し、手で持つ様に彼に諭す。
「ラゼキ、大丈夫かなぁ…」
「…あいつは強いよ。もしかしたら、もう解決してるのかもしれない…だけど少し心配だから見に行くだけだ…」
心配する美月の顔を見てイルトはニコッと微笑んで見せた。
前に見た明るく元気な表情。
美月もラゼキを信じてコクッと力強く頷いた。
そのまま走り出すとスカートが雨に濡れて思う様に足が上がらず、前に進む速度が鈍る。
おまけに靴下が水を吸収しているせいか湿っぽくなって凄く気持ち悪い…。
「ミヅキ、大丈夫か?」
「うん…」
ズド───ン!!!
「きゃッ!?」
「ミヅキ…!!?」
突然、目の前に黒い閃光が発生しそれが美月の持っていた傘の軸に伝わって手が痺れ、その衝撃で倒れてしまった。
「ミヅキ、しっかりしろ!!」
美月は突然のトラブルに見舞われて対処出来ず、イルトに対して答える気力を失っていた。
イルトは構わずに美月の持っていた傘を取り払い、ぎゅっと彼女の頭を腕の中に収める。
降りしきる雨の中どうしようもなく、ただその場に座り込んで─。
そうしていると、水を弾く様な足音を耳にする。
何時の間にか目の前には知らない青年の姿があった。