吸血鬼の翼
揺れる心
腕を伸ばした先には、暖かいものが手の平から感じ取られた―。
美月の手の平が次第に暖かみを帯びていき、それに比例する様に少しずつ瞼を開いていった。
「!」
その瞳に映し出されたものは見慣れた人物の姿。
「……ルト?」
美月は鈍くなった頭でイルトに抱えられている状態を知る。
声は思う様に出なかった。
又、彼も美月の呼び掛けに反応はない。
美月の手の平はイルトの頬を触ったままで、そこから体が痺れている様で動かしにくかった。
雨は彼を濡らし滴が頬に伝っていった―。
雨の滴なのに、
涙に見えて
本当に泣いている様―…。
周りの木々は大気の激しさを全体に受け、悲鳴を上げている。
葉っぱは地面にハラハラと落ちていく。
そして赤黒い光がイルトと美月を囲み、辺りを包み込んでいる。
今までに感じた事がない殺伐とした雰囲気。
そこでやっと美月は今の状況が危険だと察知した。
「…何…、これ…」
意識が戻ったばかりで頭は重たかったが、必死になって動かしイルトの顔との距離が近くなった。
だが、イルトには美月が目に入っていないのかその表情は全く変わらないまま。
何で……
気付いてよ、此処にいるのに。
私が見えないの…!?
それとも、見ようとしないだけ……?
ふと美月の瞳から涙が溢れて来る。
潤んで視界に映る全てのものが歪んで見えた。