吸血鬼の翼
「ルイノって…“向こうの世界”の人だよね…?」
「あぁ…」
横目でイルトを見ると、表情が哀しげに歪んでいた。
“その時”の事を思い出しているのだろうか…。
とても、悲痛な声。
それ以上イルトに声をかけられなかった。
美月のイルトを掴んでいる手は自然に強くなっていく。
ルイノってどんな人何だろう?
イルトにどう関わった人何だろう?
疑問は次から次へと頭の中を駆け巡る。
でも、こんな状態の彼に聞けないわ…
美月はもどかしい気持ちに駆られる。
すると不意に再びドアの開く音がした。
「……話す時なんやな。」
「ラゼキ!!」
驚いた美月とイルトはほぼ同時にラゼキの方へ振り向いた。
ラゼキは後頭部を軽く掻きながら目線を上に向ける。
「……?」
ラゼキの態度の意味がよく分からない美月とイルトは互いに見つめ合う。
「お前ら…少し離れ、何かこっちが恥ずかしいわ。」
「あ!!」
「ご、ゴメン!!」
イルトは慌てて美月を離す。
美月は急激に体温が上昇するのを感じ取り、頬を両手で覆った。
「ミヅキ、大丈夫か?」
暫く顔を下に傾けていたら、イルトが心配そうに背中を擦ってくれた。
「ありがとう、もう平気よ」
イルトにこうして貰える事がとても心地がいい…
美月は笑顔でイルトに答えると彼もまた柔らかい笑みを返してくれた。