吸血鬼の翼


瞼をゆっくりと開いていく。
シーツの感触で、ベッドの上にいることが分かった。

俺、、獣道で倒れたんじゃ……!?

天井が視界に入ると慌てて腰を上げ、首を左右に振って辺りを確認する。

「…ここは?」

「ダメだよ、動いちゃ…」

気がつくと、部屋の片隅から声が聞こえた。
そこには成人に近いくらいの青年が椅子に座ってイルトを見つめていた。

サラッと靡く長い鮮やかな緑色の髪、瞳もそれと同じだ。その目を優しく細めると見守る様にイルトを見る。

一瞬、呆然と青年を眺めていたイルトだったが、ハッと自我を取り戻し、ブンブンと首を振った。
聞きたい事が頭に過ぎり、窓の外に目を向けて青年に問う。

「ここ、どこ?」

「礼拝堂かな?」

フッと聞こえた青年の声はよく透っていた。

「かなって…!?」

「礼拝堂だよ、因みに此処はコトラリス国のシンパースっていう町ね。」

クスッと小さく笑うと青年は口元に手をやり、イルトの近くまで来て窓をガタンと上にあげた。そして光が部屋に射し込みみるみる、イルトの肌が赤くなっていく。
それは目にもしみて辛い。

「眩しいっ…!!」

両腕で顔を庇う様に覆った。そんなイルトの態度に異変を感じた青年は慌てて窓を閉めた。

「ごめん、皮膚弱いんだね。だからローブを着ていたんだね」

赤くなった腕を優しく撫でる青年にイルトは不思議な気持ちになった。


今更だが、青年の言葉に気付いた。纏っていた衣類の代わりに薄い生地で出来た白い服を着ている。

「…ローブは?」

「洗っているよ、随分と汚れていたからね。」


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