吸血鬼の翼
これは、感謝した方がいいのだろう─
どこの誰かもわからない俺を拾い、その上衣類まで洗ってくれているのだから。
「ありがとう…」
「気にしなくていいよ、しばらくここで安静にしてるといい」
ニッコリと笑う青年に思わず安堵してしまう。
イルトは今まで会った人の中で一番不思議な感じのする青年だと思った。
「…あなたの名前は?」
ベッドにちょこんと座っているイルトに青年は彼の顔を覗き、問う。
「イルト……」
「イルト、僕はルイノっていうんだ。よろしくね」
「ルイノ…」
青年の名前を確認する様に、改めてイルトは声に出して言葉にした。
「何、イルト?」
優しく俺の名を呼ぶ声、久しぶりに聞いたのかもしれない。
だって、そんな人…誰もいなかったから。
"あの日"以来から────
それがとても嬉しくて涙が瞳から溢れた。
そんなイルトの様子に少し慌てながらも、ルイノは優しく彼を包む様に柔らかく抱き締める。
「もう、大丈夫だから」
その一言を耳にしたイルトは更に大声をあげて泣き続けた。