吸血鬼の翼



礼拝堂の窓の外を見ると丘の下の町はさっき見た時よりも煙が黒く燻り、肥大し上がっている。

不意にイルトの脳裏に先程町に向かったルイノの事が過ぎり、思案が体中に駆け巡った。

「ラゼキ…」

先刻、生意気で偉そうにしていたあの少年は妙に落ち着き払い、ドアの手前に立っている。
イルトに名前を呼ばれたラゼキは振り向くと、年齢に相当しない顔つきでイルトを静かに見つめる。

彼の沈黙の威圧にイルトは戸惑いながら、聞きたい事を言う為に怖々と彼に近付いた。

「ルイノは何しに行ったの!?それに、アイツ等って誰!?」

必死に伝えたイルトは見えない何かに怖がりながらも、ラゼキの袖を小さく握った。

「…お前が知ったってしゃーないやろ」

イルトの必死も虚しく、ラゼキは冷たい声でそう返すと再びドアに向き合った。
その彼の行動に不満を感じたイルトは焦燥感に駆られてラゼキの服の襟元を思いっきり掴んだ。

「何やねん!痛いやろ!!」

「アイツ等って誰!!?」

彼の真っ直ぐな赤い瞳はルイノへの身を案じていた。そんな風に見られたラゼキは彼を拒否する気力を失う。

「あ~もう、うるさいな!!半獣人の事や」

「!!!」

その言葉を聞くと目を見開き、イルトは下を向いて急に黙り込んでしまった。
ラゼキはその反応に疑問を抱き彼の方へ手を伸ばした。

己の煩く鳴る鼓動と不安に動揺していたイルトだが、ふとラゼキの背後から異変を感じた。

嫌な気配──…

ルイノ達に会う前の…あの時の気配に似てる。

“コレ”は危険だ!

「ラゼキ!!!」

「え!?」

イルトは慌てて彼を庇いその場から跳んで離れた次の瞬間、ドアの勢い良く壊れる音が礼拝堂中に木霊した。


< 56 / 220 >

この作品をシェア

pagetop