吸血鬼の翼
突然の出来事に驚愕したラゼキは絶句していた。
砂埃がそこら中に舞い上がり視界が悪い為に一体何が起きたのか一瞬わからなかった。
だが、数分経ち砂埃が治まる頃目の前の光景に思い知らされる。
頭から生えている先の尖った突起、肌は薄い緑色、背中からの羽が前後に風を煽っていると相手の姿が浮き彫りになっていく。
呆然として動かないラゼキを尻目に一歩前進したイルトは相手を睨んだ。
何度もこの様な状況を体験したであろう彼の精神に恐怖心等なかった。
「何だ??ガキ2人かよ…チッ、まぁいい、少しは腹の足しになるだろう」
物凄い形相で2人を眺める半獣人は低く掠れた声で言うと己の腕を突き出し、5本の爪が鋭く尖る。
「イルト!お前は下がっとれ、俺が何とかする」
我に返ったのか震えた手でイルトを庇い、相手に立ち向かおうとするラゼキを見ていたが、それをイルトは更に片手でラゼキを後ろにやった。
「イルト!?」
「危ないから、俺の後ろにいて!!」
「ククッガキ1人で何が出来る?」
半獣人の嘲け笑う声が礼拝堂に響く。
イルトは目の前にいる半獣人に怯む事なく、無言で前へ前と足を進めた。
ラゼキはそれを止めようと腕を伸ばしたが無駄に終わる。
そして何かが、勢い良く開く音がした。
「な、何や!?イルト、お前!!」
「!!?」
ラゼキと半獣人が見たものは幼い少年の背から、羽が広がっている光景…それも本人より倍もある大きな羽だ。
イルトは少しだけ顔を歪ませた。