吸血鬼の翼



「あのガキの能力……今、思い出しても恐ろしかったな。」

「なんせあの結界の所為で俺達、消滅されかけたからなぁ」

各々、口を開いた半獣人はその時の事を思い出しているらしく身震いをした。
終いには、感情が伝染する様に皆青ざめた表情をして沈黙してしまう。

男は辺りの雰囲気に飲まれる事なく、寧ろそんな半獣人達を見下す様にして眺めていた。

「…オイ、貴様何が言いたい?」

そんな男の態度に不快感を覚えたのか、回りにいた半獣人達の奥に居る首領らしき半獣人が声を低くさせ男を睨む。

その威圧に怯む事なく、首領の方を振り向くと男は口を静かに歪ませた。その表情は先程と違って不気味に微笑んでいる。


「あの一族の子供の居所が分かっていて、例の"能力"が手に入るとしたら…、どうする?」

「!!?」

その言葉を男が口にした途端辺りが一斉にどよめき始めた。
驚愕したり、呆然とした顔で男を見たりと戸惑いの色が隠せない。そんな辺りの流れに気する様子もなく、首領は訝しげに眉をひそめた。

「何を企んでいる…?」

疑うのは当然の事だった。

そんな事どうしてこの男が知っているのだろうか。
それに素姓もよく知らないこの男の話を信用するだけの価値などない。

「僕は君達の力になりたいだけだよ、ただね…それに知りたくないの?"赤子"の居所と能力が手に入る方法を」

それを察したらしく男はニヤリと更に笑みを深め、確認するかの様に口を開きズイッと首領との距離を縮めた。

この男は一体何者なのだろうか?

半獣人の首領相手に平然と交渉したり、何処か余裕のある嫌な雰囲気を纏っている男の空気を肌でビリビリと感じたり。
…信じる信じない以前に今は逆らわない方が良いと頭の中で警鐘が鳴っている。

「…わかった、その方法とやらを聞こう」

取りあえず、聞いてからでも遅くはない。それに半信半疑だけれど少なからず、興味がある。
首領が承諾した後、男は静かに喋り始めた。



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