吸血鬼の翼
束の間の休息【過去編②】
「ルイノ…」
イルトは早朝から目が覚めてしまっていた。
呆けた頭でルイノの部屋の扉を無断で開いて寝室の辺りを見渡してみたが、彼の姿はそこにはなかったので、今こうして外に出てルイノがどこにいるか探していた。
「…そうだ!」
何か心当たりでもあるのか、イルトは礼拝堂が建っている奥の建物へ足を運んだ。
そこへ辿り着くと、自分の身長の倍はある少し重い扉を開き、一歩踏み出すと室内を眺めた。
此所には見渡す限りの本がある。本棚は勿論のこと、床にも収まりきらない沢山の本が乱雑に積み重なっていた。
魔法書、地学書、史学書など他にも様々な本がその部屋にはあった。
ルイノはたまに早朝に書庫へやって来ては、本を読むのに没頭している事がある。
静かな室内は彼がいない様に感じたが、奥の本棚からバサバサッと本の崩れる音がしたのでそこに彼がいると確信した。
「ルイノ…!!」
予想が的中した。
そこには思っていた人物が頭を痛そうに擦って本を元の位置に戻す為、本が片手に握られている。
床には沢山の本達で溢れ返っていた。
「イルト…!おはよう。」
少しだけ目を見開くと新緑色の瞳はやがて穏やかに細められる。
朝の挨拶をするのはいいが、この人は…
「ルイノ、大丈夫か?」
「うん、何とかね。」
イルトは慌ててルイノの崩した本を手に取り、本棚に手早く戻す。
「ありがとう」
相変わらずのルイノにイルトは改めて自分が幸せなのだと実感する。
優しく微笑む彼にイルトは気を許しているし、ここにいる仲間や通って来る人々にも厚い信頼を築いていた。
吸血鬼故に疎む人も少なからずいたが、ルイノが側に置いているという事で安心して接する人もいる。